Detective Conan

世紀末の見る夢





















 あいつらは何処に行ったんだ…?こっち、じゃないし…。あ、向こうかな?
 人の気配を探りつつ(クセだな…)電話の方へ行ってみれば、蘭さんが不審そうにコナンが居るであろう方向を見つめていた。
 オレが軽く肩を叩くと、彼女は飛び上がるように反応し、後ろへ下がる。
 さすが、空手の猛者。反応が他の女と違って、格段に速い。
「…あ!?」
「蘭さん、銃を持っている犯人がうろついているかもしれません。皆さんのところへ戻って下さい」
「でも、コナン君が…」
「彼は、僕が連れ戻しますから」
「あの…」
 なおも言い募る彼女に、オレはさっさと戻れ!と言いたい気分を押さえて笑みを浮かべ、言葉を重ねた。
「任せといて下さい」
 蘭さんはこちらを気にしつつも、ラウンジへと戻っていった。
 一番奥では、どうやらボウズが電話を掛けてるらしい。
 さて、誰に何を聞くつもりかな…?
 オレはポケットの奥から無線機を取り出すと、この船の無線電話に合わせた。
 目立たないイヤホンを耳に押し込み、聞き入る。
「あ、博士?オレだけど、大至急調べて欲しいことがあるんだ!」
 やっぱり、阿笠博士か…蘭さんを帰して正解だったな。
 彼女の視線はどうもおかしかった。なんてーか…見張っている…いや、やっぱり疑っているって感じかな。とにかく、コナンの中の何かを見ようと、必死になって目を凝らしていたようだった。
 もしあの視線がオレの想像通りだとしたら、結構危機だぜ、名探偵。
『なに!?右目を撃つスナイパーじゃと?わかった、調べてみる。十分後にまた電話をくれ!』
 …右目を撃つスナイパー、か…。
 ヤツの撃った弾は、オレのモノクルを貫いた。
 小細工をしてあったモノクルのレンズは僅かに銃弾を弾いたものの、今のオレは右目が殆ど見えないような状態だ。
 そして…あのボウズが持っているとはいえ、オレはオヤジのモノクルを失った。
 服を替えようと、シルクハットを替えようと…唯一オヤジから受け継いでいた、あのモノクルを。
 あれはキッドの魂。怪盗キッドが、怪盗キッドである為の唯一無二のもの。
 絶対に…絶対にヤツを許しはしない……!
「!」
 バタバタっと足音がしたから、オレは即座に物陰に隠れた。
 …あ、隠れる必要ねーじゃん。今オレは白鳥警部補なわけだし……と後悔しても、隠れちまったもんはしょーがねー。
 コナンはキョロキョロと辺りを見回し、険しい目つきで宙空を睨んだ。
 何してんだ、一体?
 しばらく辺りを見回すと、彼はふぅ…と息をついて電話の方へと戻っていった。どうやら緊張していたらしい。
 ああ、もしかして…まーたオレの殺気に反応してたのか?
 思わず声を殺して笑ってしまう。なんて可愛いボウズ。根っからの探偵だな。
 残念ながら、今のはお前に向けたんじゃないんだぜ、名探偵。
 隠れた以上はのこのこと出ていく訳にもいかず、オレはゆっくりとデッキへ出た。
 頬をくすぐる潮風が気持ちいい。
 未だオレの中に駆け巡るこの醜い想いを、全て掻き消していくかのように。
『ああ、博士?オレだけど…』
『わかったぞ、新一!』
 新一…か。分かっていたつもりだけど、しっかり念押しされた気分だ。
 しっかし、電話とは言え随分と不用意な爺さんだな。盗聴されてるとも限らないだろうに…。名前を隠している以上は、その名前は出さない方が良いんじゃねーの?って、俺が心配するようなことでもないか。
『ICPOの犯罪情報にアクセスしたところ、年齢不詳、性別不明の怪盗が浮かんだ!!』
 ICPOって…この阿笠っておっさん、結構すごいんじゃねーか…。
 寺井ちゃんとタメ張れるかな?
『その名は……スコーピオン!!』
『…スコーピオン!?』
 スコーピオン…なるほどな。紅子は本当にそのままの事実を言ってたってわけだ。
 右目に針を持つ、深紅の毒虫か…。
 見上げると、そこにあるはずの救命艇が消えていた。
 が、救命艇が消えていたからと言って、逃げたとは思えない。
 逃げたと見せ掛ける、なんて有り触れた手だもんな。
 ヤツは今でもこの船の中にいる筈だ。
 深い海の底で虎視眈々と獲物を狙っている…紅子が言った言葉のように。




 電話が終わり、ボウズは毛利探偵達がいるであろう西野さんの部屋へと向かった。
 警察用無線で連絡を行いながらボウズの様子を窺っていたオレは、何食わぬ顔でコナンを発見して叱り、合流して西野さんの部屋に向かう。
「待って下さい警部さん!!私じゃありません!!」
 彼の部屋あたりから、叫び声が聞こえた。
「アンタが犯人で無いなら、どうして指輪があったんだ!!」
「わかりません、私にも…」
 指輪か…ああ、例の寒川って男が持っていた指輪な。
 西野さんの部屋から見つかったのか。
 填められた…様に、オレの目には映った。
 ただ、誰が何の目的で…ってー辺りはさっぱりわかんねーし、第一彼じゃないと言い切る材料もない。
 ボウズはいつの間にか大人の足の間を擦り抜け、ベッドの辺りで考え込んでいる。
 枕を触ったり、顎に手をやったり。
「コォナァ〜〜〜〜ンッ!!」
 勝手に入ったと拳を振り上げて怒る毛利探偵の腕をするりと抜けると、ボウズは西野さんを見上げた。
 …ん?
「ねぇ、西野さんって羽毛アレルギーなんじゃない?」
「え、そうだけど…」
「じゃあ西野さんは犯人じゃないよ!」
 ちょっと待て、こいつ…。
「…え?」
 と、コナンがオレを振り返った。
 思わず視線が鋭くなっていたことに気付き、オレは顔を上げて笑って見せた。
「いいから続けて…」
「う、うん…」
 怪訝そうに視線を移動させると、ボウズは続きを話し始めた。
「だってホラ、寒川さんの部屋羽毛だらけだったじゃない?
 犯人は羽毛枕まで切り裂いてたし、羽毛アレルギーの人があんなことするはず無いよ!」
「本当に羽毛アレルギーなんですか?」
 目暮警部の質問には、ラウンジに移動した後、雇い主である鈴木会長が答えた。












Back  Index  Next