今度の舞台は大阪。下見は重要だよね、食べ物も美味しいしね!ってことで、オレはさくっと大阪に向かった。
大阪まで一人で運転は辛いけど、ドライブ自体は大好きだし。偽造免許も持ってるしー。
たこ焼きにお好み焼きに。食べ物食べ物。楽しみ〜っ!
好きな音楽をガンガンに掛けながら、オレは高速をすっ飛ばした。
警部があーんな推理やこーんな計画をしてくれちゃうもんだから、随分と計画変更を余儀なくされたけど、まあ範疇内。
問題はおこもりの予定地を見付けられなかった事、だよなー。アイタタ。怪盗キッド、痛恨のミス。ごめんね大阪の皆さん。このまま分からなかったら、キッドはちょっと……悪者かも知れない。
ってーか元から罪人やん!と即興大阪弁で自己ツッコミをしつつ、オレは大阪の街に車を滑り込ませた。
大阪城に、鈴木近代美術館。大阪府警本部に、通天閣と。一部関係ないけど、行かないから。
こうしてこうして…きっと警部はこう来るからこうして…。
変電所は…うわ、結構いっぱいあるなァ。こりゃ苦労しそうだぜ。系統調べて、現状把握と計算と…配線をどーするか…めんどくせェ。
けけっ、面白くなってきやがった。
ウォーターフロントに行く前にお好み焼きでも食ってこーかなーと思って、オレは一軒のお好み焼き屋に入った。う〜、いい匂い。
おっ、たこ焼きとくっついてんじゃん、この店♪
いいねぇ、ついでに食べてこ。
「すみませーん、豚タマ〜」
「あいよぉ!兄ちゃん、メシはどうする?」
「は?メシ?」
…なんでメシ?
お好み焼きだぜ?
きょとんとしたオレに、隣にいた男が話しかけてきた。
「なんや、知らへんのか?お好み焼きはおかずやろ、メシが付いてくるのが当たり前やないか」
当たり前ぇ?主食に主食くっつけるのが?
怪訝に思って横を向いたオレは、めちゃくちゃ驚いた。
は、服部平次!確か、関西方面では有名だっつー、高校生探偵じゃねーか!
工藤新一(今はコナンか)と仲がいい…らしいってやつ。
んなとこで会うとは思わなかったぜ…。
すっげぇ驚いたけど、よく見れば向こうはそれ以上に驚いている。
あ?なんだ…?
「く、く、くどぉ!?おま、いつの間に復活したんや!?」
…はぁ?
工藤って、工藤新一だよなぁ。
「なんでオレに言わんかったんや!なぁ!いやそれよりなんでここにおんねん!」
「いや、まて、ちょっ、違うっ!!」
襟刳りをぐいーっと締め上げる服部に、オレは慌てて口を開いた。
し、絞め殺される!
「へ…?何が違うんや、何がっ!!」
「オレは工藤じゃない、工藤じゃ!」
「あ……?」
力がゆるんだ隙にさっとヤツの腕を振り解いた。
はー、苦しかった。
「オレは工藤って名前じゃないよ。人違いじゃねーか?」
「ちゃうんか?んーな似とる顔して…。ほやったら、名前は?」
「自分?」
「お前の名前はなんやっちゅーて聞いてるんや」
なんだこいつ…。
「黒羽快斗、だけど…」
「クロバ、やな。すまんすまん。オレの友達にそっくりやったから、ついなァ」
「つい」で首締めんなよ、「つい」で。
あ、しまった、本名言っちまった!!
…まあしょうがねーや、言っちまったもんは。
「詫びにここ奢ったるから、んな不機嫌そうな顔すなや…。おっちゃん、ここの豚タマ、オレの勘定に加えといて!メシも忘れんといてや〜」
「あ…」
強引に事を運ばれて、思わず見守ってしまった…。
「あと、たこ焼き1つな!」
「あいよぅ!」
…やたらと強引なやつだな。
「しっかし、そっくりやなぁ…」
しかもじろじろ見るし。なんか遠慮のないやつ…。大阪の人間って言われると納得するとこもあるかな…。
「その工藤って誰だよ…。そんなにオレに似てんの?」
「ああ、知らんかな。工藤新一って、高校生探偵て有名なやつなんやけどなァ、そらもー本人かと思たくらいそっくりや。…親戚筋とかともちゃうよな?」
「残念ながらな。ところで、お前は?」
知ってるけど知らない振り。こっちじゃあ有名かもしんねーけど、東京方面ではそこまで名が通っているわけじゃない。知ってる方が逆に怪しまれるだろう。
「ああ、まだ名前言うてなかったか?オレは服部平次や。こっちじゃ、西の高校生探偵て有名なんやで?」
「へぇ…高校生探偵ねぇ」
あー、あの。えーえ、良く知ってますよ。関西方面の紙面じゃ有名人だもんなー。
しかし、探偵ってのはどいつもこう…いやーな感じがするぜ。
相手を見透かそうとするような視線。これはそこそこ優れた探偵であれば持っている独特の瞳だ。オレはどうも、そいつが好きじゃないらしい。ま、見透かされて困ること抱えてるオレもオレか。
「こっちには旅行で来たんか?」
「え、ああ…」
どうするかな…何を目的にするか。
本名言っちまったし…ああ、やっぱ痛かったなー、本名言っちまったの。
本名じゃなけりゃどうとでも言えるのに…。
悩んだってしょーがねーや。
「ドライブだよ、ドライブ。泊まりがけでさ」
「なるほどな、ドライブしがてら大阪観光に来た言うことかいな」
「そう言うこと。夏休みだしな」
「どこ回ったんや?大阪城と通天閣か?」
「うん、そんなとこだな」
大阪城は周囲を探るだけでいい。どっちにしろ中に入る必要はないし…通天閣は中に入る必要があるけど、それは設計図も入手してるし見物もしたので問題はない。大阪府警本部と鈴木近代美術館については論外。府警本部に用は殆どないから、どっちも偵察程度。美術館側は設計図も入手してるし、計画がスムーズに行けば入る必要すらない。ってか、美術館まだオープンしてねーし。
あ、病院とホテルを調べてねーや…帰りに調べていくか。
「他んとこは回ってへんのやったら、オレが連れてったろーか?」
「へ?」
な、なんだこいつ?
「オレが案内したるわ。海でも山でも、好きなトコ連れてったるで?」
なんて人懐ッこい奴。普通、初めて会った人間にいきなり案内を申し出るかぁ?
でも、とオレは踏み留まった。
よくよく考えてみれば、工藤新一…あのボウズが出てくるってのに、コイツが事件に絡んでこない筈はない。交友関係を考えれば、十中八九事件に絡んでくるだろう。第一、コイツの父親は確か服部平蔵……大阪府警本部長だ。
なにかいい情報が手に入るかもしんねーし…。
ニヤリと笑う心と裏腹に、顔は申し訳なさそうな表情を作った。
「いや、でも初めてあったヤツにそんなの…悪くねーか?」
「アホ、オレが言い出したことやん、んな細かいこと気にすんなや!んで、どこ行きたいんや?」
単純…。
なら、この後寄ろうと思っていたウォーターフロントの案内をして貰うしかない。
「じゃあ、港の方案内してくんねーか?大阪湾の辺りさ」
「ええで!ほんなら、とりあえず食ってしまおか」
出てきたお好み焼きは熱々で、普段食べるようなモノと違いかなり美味かった。たこ焼きもタコが大きいし、お好み焼きはほくほくしている。うーん、美味い。
メシが一緒だとかなり満腹になった。けぷ。
「美味いやろ、大阪の食いもんは」
「ああ、さっすが大阪…ダテに店が並んでるわけじゃねーんだな」
「あったりまえやんか〜♪」
上機嫌で会計を済ませると(約束通りオゴリだ)、服部はオレを連れて店を出た。
「んで、クド…いや、クロバは何処に車止めとんのや?」
「あ、こっち。」
店のすぐ裏に、百円パーキングがあったのでそれを利用してたんだ。
食事中の駐車料金を払うと、オレは車を服部の前まで回した。
「さ、乗れよ。ナビ頼むぜ」
「もっちろんや。この辺は一方通行が多て大変やからな。任しときや」
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