Detective Conan

赤と白














 中森はまだ現場にいた。死体の片付けやらなんやら、やらなければ行けないことはまだある。警官がごった返す中、中森は不機嫌そうに死体があった場所を見ていた。
キッドが人を殺すようになってから、中森の眉間にはしわが寄ったままだ。娘の青子が何と言おうとしわが消えることはなかったし、笑みが浮かぶことすらなかった。


「こんばんは、警部。」

不意に上から声がかかった。高い天井の上の方・・・・・それも、月が見える窓。
月明かりを浴びて微笑んでいるのは、紛れも無い、あの怪盗キッドだった。

「キッド・・・・・貴様ぁ!!」
「お土産です。受け取ってください。」

キッドが軽く指を鳴らすと、部屋の中央には煙幕と共に一人の男が出現していた。

「これは・・・・・み、三浦!?」

キッドと同じ格好をしている三浦を見て、中森は驚きの声を上げた。
三浦は中森の部下である。

「な、なぜ三浦が・・・・死んではいないな。」
「当たり前です。怪盗キッドは・・・・・私は人を殺さない。それは、貴方が一番よくご存知でしょう?」

キッドは笑みを絶やさずに中森に言った。

「しかし、ここ1ヶ月は・・・・・・」
「喩え偽者が何をしても、私は人を殺したりはしない。」

二人の視線が三浦に落ちる。
その高さにも関わらず、キッドはひらりと舞い下りるとゆっくりと三浦に近寄った。
抱き起こして背中に渇をいれると、三浦は低く唸って目を開けた。

「三浦、大丈夫か?」
「け、警部・・・・・。」

三浦は中森を凝視してから目を伏せた。

「彼が、ここ最近の事件の犯人です。
・・・・・・私の偽者ですよ、警部。」
「偽、者・・・・・!?」

唇を噛む三浦に、キッドは口の端を攣り上げた。

「理由は彼からお聞きなさい。彼がすべてを知っています。
それから、ここ1ヶ月の『怪盗キッド』が盗んだものについても、彼にお聞きなさい。
それは、私の知るところではない。」

冷静に言葉を綴るキッドを、中森は呆然と見つめた。

「本当に、キッドじゃなかったのか・・・・??」
「くどいですよ、警部。
 貴方だけは、解ってくれるだろうと思っていましたが・・・・・・残念ですね。
 愛が足りませんよ、警部?」

キッドはふわりと飛び上がると、月を背にして窓辺に立った。

「キッド!!」
「・・・・・・次の勝負は、ちゃんと私としましょう。
 もう、お間違えのないよう・・・・・・では失礼。」

白いハンググライダーとなって飛び去るキッドを呆然と見て、警部は笑った。
そう、笑っていた。












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