コナンがすべてを話したおかげかどうか、キッドは蘭や小五郎に疑われることもなく、"新一"として怪我を治すために日々を送っていた。
「新一、起きちゃ駄目よ。寝てないと・・・・・」
「大丈夫だって。わりともう痛くねぇから。それに、食事くらいはテーブルでしたいしな、そろそろ。」
「そう?痛くなったら、すぐに言ってね。」
蘭はかいがいしく世話を焼いていた。快斗は彼女に悪いと思いつつも、それに甘えていた。
(青子・・・・・どうしてるかな。)
母には1、2度、隙を見て電話をしておいたので、学校のことなどは母が何とかしてくれているだろう。だが、それで安心できるわけではない。
「どうしたの、新一。痛い?」
「いや、なんでもない。」
快斗は新一として、彼女に笑顔を向けた。年も同じだし、演技をするには楽ではあったが、それでも多少のストレスは溜まる。
「やっぱ、寝るな。」
「うん。あとで、おかゆでも持っていくね。」
無邪気に笑われると、快斗の心も痛む。彼女を騙しているのだと思うと、良心が痛むのだ。
「ああ、頼む。
あ、コナンが帰ってきたら起こしてくれよ。」
「わかってるわよ。もう、本当に仲がいいんだから。」
コナンには、例の男の調査を依頼している。自分が動けない分、じれったくて仕方が無い。
だが、あれから1ヶ月。ほとんど検討はついている。
あとは、快斗だけだ。
快斗は布団に戻ると、大きくため息を吐いた。
傷は大分癒えた。多少は痛むが、もう糸も抜いたし、動くことは出来るだろう。
(蘭さんには、悪いな。)
そう思うと、動くに動けない。
だが、青子のことを思うと、動かずにはいられないのだ。
正直、板挟みに近い状態である。
「ただいまー」
階下から、コナンの声がする。蘭の声がなにかを伝えると、コナンはまっすぐこの部屋へと上がってきた。
「調子はどうだ?」
入ってきて、コナンはいつものようにそう言った。
「まずまず、ってとこかな」
快斗もいつものように答える。
コナンが椅子に座るのを待ってから、快斗は話を切り出した。
「そろそろ、動けると思う。」
「・・・・・そうか。」
静かに言い、静かに答える。
二人ともが、動くことの意味を判っていた。
「彼女には悪いが、俺にも生活ってもんがあるんでね。」
「判ってるさ。仕方が無い。」
コナンは目を伏せてそう言った。蘭の悲しみが手に取るように判る。
だが、新一とコナンが同時に存在するこの状況は、夢と同じようなものである。快斗が自分の生活に戻れば、消えてしまうのだ。
それが判っているからこそ、二人ともが押し黙った。
「あ、そうだ。」
しばらく続いた沈黙を、コナンのほうが打ち破った。
「ん?」
「情報があったんだ。
奴が動く。」
緊張した空気が走る。
「警察に予告状が届いた。ジュエリーショップ"ルブラン"にある、「蒼き記憶」を狙っているらしい。日時は、明日の24時。」
「明日か・・・・・。」
明日になれば、全てのカタがつく。
沈黙になりかけた雰囲気を、快斗は無理矢理引き裂いた。
「作戦、立てようぜ。
・・・・・・・・・明日、全てが決まる。」
翌日、全員が寝静まってから二人はそっと家を抜け出した。
抜け出す前に、手紙を残しておくことも忘れない。
二人で蘭に謝罪の手紙を書き、そうっと枕もとにおいてから夜の街へと飛び出た。子供の影と白い影が街を走り抜ける。
街が見下ろせるがけまで来ると、快斗はコナンを掬い上げた。
「なんだよ。」
「飛ぶぞ。しっかり捕まってろ。」
「え・・・・・・うわっ!!」
快斗は勢い良くがけから飛び降りた。
ボタンを押すと同時に、身体がふわりと浮き上がる。
「ぐっ・・・・・・・」
快斗は腹を押さえて低くうめいた。
「痛むのか?」
「ちょっとだけな。」
「痛むなら無理しなきゃいいじゃねぇか。」
コナンが眉を寄せてそう言うと、快斗はにやりと笑って見せた。
「キッドはあくまで華麗に、だろ?」
グライダーは軽やかに夜の闇を裂いた。
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