翌日、小学校から帰ってきたコナンは、真っ先にキッドのもとへと向かった。
「あ、ちょうど良かった。」
蘭は学校を休むと言い切り、付きっ切りで看病をしていた。
彼が工藤新一だと、疑いもせずに。
「買い物に行ってきてくれないかしら?」
「買い物?」
「蘭、俺は平気だから、行ってこいよ。」
コナンが首をかしげるのと同時に、キッドが口を開けた。
声色無数と言われているキッドである。新一が喋っているのと変わりはなかった。
「でも・・・・・」
「いいから。コナンと、少し話しもしたいし。」
「・・・・・・わかった。じゃ、コナン君、お願いね。無理させちゃ駄目よ。」
蘭は椅子から立ちあがり、階下へと降りていった。
コナンは枕元に近寄ると、蘭の椅子に腰を下ろした。
「傷の具合、どうだ?」
「ま、なんとか。悪いな。」
「いいさ、別に。・・・・蘭も、喜んでるしな。」
表面上は「こんな怪我して!」と怒っていたが、蘭は久々に新一と一緒にいられて喜んでいた。その喜びがわかるので、コナンには胸が痛い光景である。
「そんで、何があったんだ。」
「・・・・・・・・・・・」
キッドはいったん目を閉じ、再び開けた。
「誰かが、俺の予告状をみて、先回りしているんだ。
それを突き止めようとして、このザマさ。」
苦々しく笑って、キッドは息を吐いた。
「なんとかして調べてみるぜ。どんなやつだか、わかんなかったか?」
「・・・・・ああ。仮面をしていて、声もくぐもっていたからな。
でも、30代くらいの男だな。身長は170前後で中肉中背。髪の毛は右分けだった。」
判らないといいつつ、キッドは特徴を並べ立てた。
「わかった。なんとか調べてみよう。」
「あ、気をつけろよ。」
「ん?」
キッドはコナンを見やった。その真面目な顔つきに、コナンも思わず姿勢を正した。
「なに?」
「奴は、警察関係者だ。」
「なっ!?」
さすがに驚きを隠せなかった。
警察関係者がキッドを語って宝石を盗み、人を殺したと言うのである。
「今回の予告状にはマスコミに知らせるなって言う注意書きをしておいた。ニュースや新聞で確認したが、確かにマスコミには知らせがいってない。なのに奴が現れたって事は、どこかから情報を入手したってことだ。
それに、奴は当初、いつも姿を見せなかった。それがおかしいと思ったんだ。
見つからないわけがない。中森警部だって、俺を捕まえられないにしても、優秀なデカだぜ。見つけられるに決まってる。それが見つからなかったってことは・・・・・」
「そうか、一緒になって警備をしていた可能性があるのか!!」
「ビンゴ。」
ニヤリと笑ったキッドに、コナンは心底感心した。
キッドの推定IQは400。超がつくレベルの天才だとは阿笠博士の資料にもあったので覚えている。だが、刺されたというのにそこまでしっかり考えているということは、探偵になれば自分と同じレベルだということだ。
「おまえ・・・・・探偵になればいいのに。」
つい、そんなことも言いたくなる。
だが、キッドは不敵に笑って首を振った。
「俺は、怪盗キッドだ。んな真似できねぇよ。
やるとしても・・・・・今回だけだ。」
キッドの目は鋭く光っていた。
ごそりと手が動いて、布団の中からキッドの右手が出てきた。
「?」
「手を組もうぜ、ボウズ。今回限りだが。
俺はしばらく動けそうもない。だが、あんな卑劣な奴は絶対許せない。
人を殺してまで盗もうと思う奴は、俺が絶対にこの手で捕まえてやるさ。
怪盗キッドの名にかけてもな。」
きっぱりと言い放ったキッドの顔は(新一の顔なのだが)、いつもの気障な台詞を吐く時のキッドと明らかに違った。
それは、父からキッドを受け継ぎ、その名を汚されるのを嫌う息子の顔でもあり。
そして、怪盗キッドとしての本当の顔・・・ポーカーフェイスの裏側でもあった。
コナンは不意に笑みをこぼすと、キッドの手を握った。
「ああ。協力してやる。ただし、今回だけだぜ。
これが終わったら、次はお前の番だ。」
「ああ、判ってるさ。
頼むぜ、パートナー。」
ニヤリと笑みを交わす。
敵同士である筈の二人は、卑劣な男の前に、手を組むこととなった。
「さて、それじゃ、お前の癖とかを教えてもらわないとな。」
「へ?」
「俺が調べた内容だけじゃ足りないからな。お前なら知ってるんだろ、工藤新一の癖を?」
明らかに、判っているものの笑み。
(そういや・・・・・・)
コナンは先日起こった"世紀末の魔術師"事件のことを思い出した。
インペリアルエッグの事件のあと、コナンの正体が蘭にバレかけたことがあった。それを回避したのは他でもない、キッドである。突然新一として顔を出し、コナンと新一が別人であると認識させた後さっさと帰ってしまった。
(あれを考えても、キッドが気付いている可能性が高い。)
あの時は話に夢中で気付かれているとは思わなかったが、後から思い返せば明らかに気付かれている。
コナンはそう思い、諦めた。
「わかった。全部話してやるから、しっかり覚えろよ。」
「任せとけ。」
生い立ちから小さな事まで、コナンが小さくなったこと以外のことを、コナンは事細かに話し始めた。
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