わやわやとしてきたところで、オレはこの場からトンズラすることにした。
あの時計台のときみてーに、バレたら困るし。
「おい、ちょっと、そこの君!」
後ろから声をかけられて、オレはギョッとした。
げっ、警部!!
なんだ、バレたか!?
「ちょっと、この子を送ってってくれんか?」
「はっ!!」
オレは振り向いて敬礼をした。
この子……ああ、ボウズのことか。
ったく、驚かせんじゃねーよ…。
「じゃあボク、行こうか?」
「ボク、じゃなくてコナン!!」
ボウズは子供らしく返答してみせた。
「コナンくん、だね?よし、じゃあ家まで送って行こう。家はどっちだい?」
ああ、ちょうどいいや。ついでにこのボウズの調査もしていこう。
オレはコナンを連れて杯戸シティホテルを出た。
真夜中の道を歩きながら、オレはボウズにいろいろと話し掛けた。
「ボウズ、どうしてあんなところにいたんだ?」
「え、ボク…お、おじさんの言う通りにしてみただけなんだ!!」
おじさん?誰のことだ?
「毛利のおじさんが、杯戸シティホテルの屋上に行けばキッドに会えるって言うから…ボク、会いに行ったんだよ!」
にこっと笑ったボウズに、オレはバリバリ違和感を覚えた。
あんときのボウズは、確かに自分の意思で行動を起こしていた。それに、自ら「探偵」を名乗っていたはず……。
隠したいのか、あくまで?
「そうかー、毛利さんが…その毛利さんはどうしたんだ?」
「えっ!?あ、そのー…べ、別の仕事があって、これなかったんだよー」
タハハ、と笑うボウズに、オレは心の底で苦笑した。
どうしても、自分で…とは言えないわけだ。
「あ、ここだよ、ありがとう!!」
突然ボウズが駆けて行った。
「ああ、気をつけてな、ボウズ!!もうオイタするんじゃねーぞ!!」
「はーーい!」
ボウズはあくまで「子供らしく」返事をし、ビルの中に入っていった。
1階は喫茶店…ポアロか…。そんで、2階が「毛利探偵事務所」…。
毛利…毛利小五郎か。
眠りの小五郎と言う名で、最近有名になってきた。そう、丁度ヤツ…工藤新一が行方不明になった直後だ。
ふぅん…調べてみる必要性がありそうだな。
翌日、オレはまず寺井ちゃんのところへ行った。
寺井ちゃんの情報網は当てになる。
「では、セリザベス号の船図と、鈴木財閥と会長の身内に関することでよろしいですな?」
「ん、頼むぜ」
寺井ちゃんの店を出て、次は…さて、何処に行くかね。
そう、次に調べるべき事柄は、あのチビ・江戸川コナンについてだ。
あのボウズは探偵だと名乗った。きっと、セリザベス号の時だって邪魔しに来るだろう。
なら、先に色々調べておく必要性がある。
どんなカードが出るか、楽しみだぜ。
「すみませーん、毛利さん。米花クリーニングですが?」
毛利探偵事務所のドアをノックすると、女性の声が返事をした。
「お預かりしていた品、お届にまいりました」
「あ、どうも、ありがとうございます!」
今赤いドレスを受け取った彼女の名前は毛利蘭。この探偵事務所を経営している毛利小五郎の一人娘だ。
今は別居しているが、敏腕で知られる女弁護士・妃英理を母親に持つ。
帝丹高校空手部の女主将を務めている。かなりの達人らしい。
「他になにか御用は…おや?弟さんがいらっしゃったんですか?」
ソファにこしかけて新聞を読んでいるコナンを見つけて、俺はびっくりしたような声をあげた。
「あ、いえ違うんです。知り合いから預かってるんですよ…そうだ、クリーニングに出すもの、思い出しました。ちょっと待っててくださいね」
蘭さんはにっこりと笑い、部屋の奥へと消えて行った。
「ボウヤ、お名前は?」
「あ、江戸川コナンです!!」
ボウズはにっこり笑って答えた。子供らしい笑みを見せて。
そう、このボウズの名前は江戸川コナン。
帝丹小学校に通う、小学1年生。
成績は優秀。といっても小学生の話だが。
それでも、奇妙に思うくらい、優秀な頭を持っている。
雑学に長けていて、妙なまでの行動力がある。
そして、一番おかしいのがこの探偵事務所に預けられた経緯と、彼自身のプロフィールだ。
両親の入院によって毛利探偵事務所にあずけられて。だが、その後退院した両親は、そのまま海外へ転勤してしまった。
その両親も、母親が1度様子を見に来ただけ。しかも一千万もの大金を毛利家に預けて…。
あまりにもおかしすぎる。
更に、小学校に保管されていた書類は全て偽造。良く出来ていると思うが、専門の人間が見れば偽物だとわかってしまうようなちゃちいものだった。
「江戸川コナン」の存在さえも、今はさっぱりわからない。なんと言っても、戸籍がないのだ。数多く存在する「江戸川」家の中に、コナンと言う7歳の子供は存在していない。
巧みに隠してあるとはいえ、おかしすぎる。
そうして調べて行く内に、ヤツの名にぶつかった。
毛利蘭の幼なじみであり、日本警察の救世主と歌われた高校生…。
東の高校生探偵・工藤新一。
現在は失踪中である彼が消えたと思われる当日、彼の家に現れた少年…それが江戸川コナンだ。
この符号は何を意味する?
時折、蘭さんのもとにかかってくると言う工藤新一からの電話。だがそれは全て公衆電話からであって、彼自身が持っているはずの携帯電話は使われた形跡すらない。にもかかわらず、コナンには連絡をとっているらしい。それらしいことを、コナンが何度か口にしたと言う話もある。
そして、コナンが来てから突如有名になった、ヘボ探偵・毛利小五郎。
今まではなかった推理中に眠ると言うクセから、「眠りの小五郎」と呼ばれた。
しかもその推理の内容を覚えてないと来た。
なんだか、見えてきたぜ…。
「コナン君か。お父さんやお母さんと離れて寂しくないのかな?」
「うん、大丈夫だよ」
にっこりと答えるコナン。
そりゃ、寂しくなんかねーだろーよ。
でも、まさかこいつが……。
自分で弾き出した結論とはいえ、未だに信じられない。
そんなことがあるのか?
「すみません、お待たせしました。やっぱり、今日のところはこれで……」
「そうですか、毎度ー」
オレは帽子を取り、にっこりと笑って外へ出た。
作戦は決まった。用意するものも用意したし、後は実行するのみ……。
あああああ!!
やっべぇ、黒真珠風の煙玉…作るのすっかり忘れてた。
鈴木朋子…鈴木財閥の会長夫人が模造真珠を大量に作らせているってゆージイちゃんの情報を聞いて、オレはある作戦を思いついていた。
でも、それには真珠風の煙玉…ってーか、花火を作んねーといけねーんだよ。
少なくとも50はつくらねーとなー…。
おいおい、マジかよ。
オレはクリーニング車のハンドルにつっぷして、深々とため息をついた。
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