「そろそろ、予告時間だな。」
快斗は―――というより怪盗キッドなのだが―――腕時計で時間を調べると、ふわりと屋上から飛び降りた。
ボタンを押すと、背中でグライダーの骨が組みあがる。
グライダーは風を受け、快斗の体をふわりと持ち上げた。
「さて、いっちょ、行きますか!」
快斗はそのまま、今日の目的地に向かった。
「キッドが現れたぞーーー!!」
美術館では警報が鳴り響き、警官たちがあわただしく動いていた。
「奴め・・・・・・予告時間前に盗むとは、どういうつもりだ!」
苦々しげに叫んだのは、キッド専任である中森警部だ。
「それも、全然姿を現しませんでしたね。」
「ああ・・・・・奴は何を考えているんだ・・・・・。」
彼らが守っていた宝石は、すでに無い。
催涙弾が投げ込まれ、混乱のうちに宝石は消えていた。
キッドの姿を見たものはいなかった。
「警部、キッドらしき人影を見たという目撃情報が。」
中森の部下である三浦が、敬礼をして報告をした。
「わかった、行こう。」
中森は眉を寄せたまま、不機嫌そうにキッドの追跡を開始した。
それを、少し離れたところから見ていた白い影が在った。
無論、キッド本人である。
「何だ・・・・・どういう事だ?」
彼はたった今、到着したところである。
予告時間の15分前。これから忍び込もうとした矢先のことだった。
突然警報が鳴り響き、警官たちがあわただしく動き始めたのである。
「・・・・・・仕方ねぇ。いったん戻るか。」
そう呟き、快斗は姿を消した。
これが、事件の始まりである。
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