Let's & Go

Poker Game





















 久々に、賭ポーカーをやった。
 ………アメリカまで来てしなくってもいいと思うんだけど……。
 去年のWGPでは、実はこっそりと、でもよくやっていたんだ。もちろん、小学生だから賭の単位はちっちゃい。一回のゲームに動くのは、全部合わせたってせいぜい百円くらいだ。
 去年は土屋研究所で合宿していたときに、夜中誰かの部屋に集まってやっていた。
 が、今年は開催地がアメリカ。寮住まいになった僕らは、毎日が合宿みたいなものだ。
 必然的に、回数が多くなる。
 それどころか、メンツがTRF内じゃ収まらなくなってきた。
 アイゼンヴォルフのシュミットくんや、NAアストロレンジャースのエッジくんなんかが混ざって、わいわいと大人数になってきた。
 ある日、エッジくんからこんな提案が出た。
「金賭けるだけって言うのは、段々味気なくなって来るぜ。どうだ、王様ゲームをミックスするっていうのは」
「お、おーさまげーむぅ?」
 みんなが戸惑った声をあげると、エッジはにやりと笑って全員の顔を見た。
「つまり、トップで上がった奴が王様、そのあと上がった順番にナンバリングしていく。後は普通の王様げーむってわけさ」
「でも、それだとそれぞれのナンバーがわかっちゃわない?」
 Jくんがそう指摘すると、エッジくんはまたにやりと笑った。
「王様が上がった後、一旦ゲームをストップして、王様には別の部屋にいてもらう。そうすれば、ナンバーがわかんなくてすむだろ?」
「あ、なるほどね。でも、それだとポーカーじゃない方がいいね」
 ミラーくんがそう言うと、エッジくんは大きくうなずいた。
「そうなんだよな、何がいいかなー……」
 うーんと考え込む。どうやらみんな考え込んでる様だけど、良い考えを言う人はなかなか現れなかった。
「あ、そうだ、これなんかどう?」
 ミラーくんが自分のディバックの中から、何かの箱を取り出した。
 ……UNO?
「ああ、そうか、ウノならカードの枚数も多いし、この人数でするにはちょうどいいよな。」
「じゃ、ウノに決定だなっ!」
 豪が嬉しそうに言った。



 最初の勝負の王様はシュミット君だった。
 シュミット君はしばらく悩んだ後、
「よし、4番と6番が野球拳!」
 と言った。……野球拳〜?
 4番と6番……ミラーくんと豪だな。
 仕方なく立ち上がって野球拳を始めた二人を後目に、僕はシュミットくんに話しかけた。
「ねえ、よく野球拳を知ってたね」
 シュミットくんはちょっと笑って僕を見た。
「ミスター鉄心に教わったんだ」
 鉄心先生、子供に何を教えてるんですか。
「バカ、野球拳なんて男同士でやられたって面白くもなんともないだろ?」
 エッジくんが呆れたようにそう言うと、シュミットくんは妙に納得したようにうなずいた。
「あ、それもそうだな」
 シュミットくん、ひょっとして馬鹿?
 野球拳は結局ミラーくんの圧勝で終わった。豪が寒そうな格好で「ちっくしょー」と叫んでいる。
「さ、第2回戦やろうぜっ」
 エッジくんが札を切っていると、ノック音が聞こえてドアが開いた。
「ここにいたのか、エッジ」
「リーダー!」
「何をしているんだエッジ。ミラーまで」
 ブレットくんはクールな顔して入ってきた。
 相変わらずゴーグルをしてる。もう夜なのに……。
 エッジくんをちらりと見ると、ブレットくんはちょっとため息をついた。
「まさか、金を賭けてるんじゃあ……」
 あ、すごく鋭い。
「賭けてない賭けてないっ、いまウノで王様ゲームをしてたんだ。な、シュミット!」
 シュミットくんは黙ってうなずいた。
「シュミット?シュミットもいるんですか?」
「エーリッヒ!」
 ブレットくんの後ろからエーリッヒくんが出てきた。
「何をしているんですかシュミット、ミハエルを私に押し付けて……」
「カードゲームだ、おまえもやるか?」
 押し付けて……って、いうエーリッヒくんもエーリッヒくんなら、誘うシュミットくんもシュミットくんだ。
「レツ・セイバ」
 ミラーくんが耳打ちしてきた。
「何?」
「協力してくれ。頭の硬い連中だと、こんなゲームを理解しやしない。丸め込んで仲間に入れちゃお。」
 見つかるとヤバかったのか……。
「協力してくれたら、今度なんか礼をするよ。何でも言うこと聞くから……」
 ……ならまあ、いいか。
「うん、わかった」
 僕たちは小声でそう取り引きすると、視線をかわした。
「エーリッヒくんもブレットくんも、一緒にやろうよ。別にいけない事してるわけじゃないんだし、明日はレースないじゃない」
 僕がそう言ってにっこりと笑うと、ブレットくんとエーリッヒくんは困ったように視線をかわした。
「しかし……」
「他のチームの人と仲良くなることだって大切なことだよ。面白いしね。」
 そう言って、もう一度にっこりと笑って見せた。
 二人は僕と互いを交互に見やった後、仕方なさそうに中に入ってきた。
「少しだけ、ですよ?」
 困ったような顔でエーリッヒくんがそう言った。ブレットくんは何も言わなかったけど、エーリッヒくんと対して変わらない気持ちのようだ。
 この二人は何故か僕の頼みを断わらない。レース以外の事なら、結構何でも聞いてくれる。
 どんな裏があるのか知らないけど、聞いてくれるんだったら頼みごとはしなくちゃね。
「助かったよ、レツ・セイバ」
 エッジくんがささやいた。
「貸しだからね」
 僕はふざけた口調でそう言った。それを聞いたエッジくんは、OKと言うように指で丸をつくった。
「なあ、もう服着ても良いのか?」
 豪はパンツ一枚の格好のままそう言った。
 なんて情けない。
「駄目だ。次の勝負が終わったら着てもいいぞ」
 シュミットくんがそう言うと、豪は不機嫌そうに座り込んだ。
「じゃあ、さっさと次の勝負をしようぜっ!」
 改めて第2回戦。



「上がりでげす!」
 次の王様は藤吉くんだった。
 ルールにしたがって、藤吉くんには外に出ててもらう。その間に残ったみんなで順番ぎめってわけ。 戻ってきた藤吉くんは、とんでもないことを言った。
「2番が3番にキスをするでげす」
 ………良かった、7番で………。
「ちょっと待て、トウキチ・ミクニ!」
 あれ、ブレットくん?
「女のいないメンツでやっても、面白くなかろうそんな事っ!」
 シュミットくん……あ、そっか、彼らが2、3番だ。
「王様ゲームをやるときは、絶対に一度はやることでげす」
 まあ、そうかも知れないけど……。
 男同士でキスしたって、気持ち悪いだけじゃないか……。
 その証拠に、すごく嫌な顔をしている。二人はライバルだかなんだかで、友達って感じでもないし……相当嫌なんだろうなぁ……。
「何か別の事に……」
「王様はわてでげす。くやしかったら王様になることでげすな」
 かっかっか、と藤吉くんは水戸黄門の様に笑った。
 こういう笑い方、似合うんだよなぁ藤吉くんって。さすが、未来の社長・・・・・いや、違うか、そういう問題じゃないね。
 あ、すっごく悔しそう、二人とも。
「…………」
 ブレットくんがすっごい顔して(それ以上には表現できなかったんだ……)シュミットくんに近づいた。
「ちなみに、口と口でげすよ」
「なっ!?」
「王様はわてでげす」
「……………」
 嫌そうに視線をかわし、ブレットくんはシュミットくんの前に立った。
「目くらいつぶれ、シュミット」
「嫌だがおまえの顔を見ている方がもっと嫌だ」
 シュミットくんが目をつぶると、ブレットくんは目にも止まらぬ速さでシュミットくんに口付けた。
「〜〜〜〜〜、エッジ、何か飲物を買ってこい!」
「エーリッヒ、紅茶だっ!」
 二人はゴシゴシと口を拭いて、チームのメンバーにそう命じた。
「やりすぎじゃない、藤吉くん。」
「………わてもちょっと調子に乗りすぎたようでげすな」
 ちょっと?
 質問したJくんも、横で聞いてた僕も、まったく同じ事を考えてしまったようだ。
 っていうか、誰もがそう思うよね……。
「さあ、次の勝負だ!」
「トウキチ・ミクニ、絶対に仕返しをしてやる!」
 クールな二人らしくもない台詞をはいて、第3回戦は幕を開いた。



 その後の結果はこう。
 第3回戦は豪が勝って、エッジ君がリョウくんに告白タイムを行った。
 第4回戦はエーリッヒくんが勝って、ミラーくんと藤吉くんが紅茶をご馳走になった……但し、イッキのみで。(正直、これが一番良かった。ブレンドがあんまり良くなくておいしくなかったらしいけど)。
 第5回戦はブレットくんが勝って、シュミットくんとJくんがワルツを踊った(これは結構面白かった。なかなか絵になっていたし)。



 そして、第6回戦が始まろうとしていたとき、またノック音が響いた。
「あ、二人ともここにいたんだね」
「ミハエル!」
「なにしてんのさ」
 ミハエルくんの声には、密やかな怒りが混じっていた(気がした)。
「ウノなんてやってるの?僕をほっといて?」
「あ、いえ、放っておいたわけでは……」
 二人の額に冷汗がにじむ。
 夢中になってやってたからなぁ……。
 かなり怒っているミハエルくん。今度ばかりは手が出せないぞ、僕だって。
「ウノで王様ゲームやってんだよ、ミハエルも一緒にやろうぜっ!」
「うん、じゃあやろっかなっ」
 つんのめるかとおもった。
 み、ミハエルくん?
 ミハエルくんは喜々として豪の横に座ったが、すれ違った際に「後で覚えててね」とささやきを残して言ったのを、僕は聞いていた。
 頑張れ、二人とも……。
 それにしても、ミハエルくんは割と豪に甘いんだな。わからなくはないけどね。
「じゃ、じゃあ、配りますよ……」
 エーリッヒくんが恐る恐る配り始めた。
 そんなに恐いのかな、ミハエルくんって。



 そして、第6回戦。
「これであがりね」
 ミハエルくんの圧勝。大差をつけて、と言っても良いくらい早かった。
「暇になっちゃうから早くしてね」
 表に出たミハエルくんを見てから、僕は隣のシュミットくんに小声で話しかけた。
「ねえ、そんなにミハエルくんって恐いの?」
「いや、恐いって言うか……」
「わがままな子供の子守をたっぷりやる、と言ったら理解していただけますか?」
 エーリッヒくんってば……。
 僕は思わず笑ってしまった。
 順番ぎめが終わって(もうウノじゃなくて只の順番ぎめだ)ミハエルくんが戻ってきた。
 彼はにっこり笑ってこう言った。
「れ………じゃない、6番が女装して明日お買物行ってきて」
 6番……僕だぁっ!!?
「やっと烈も当たったな」
 リョウくん、そんなさわやかに言わなくっても……。
「で、でも洋服が……」
「大丈夫、僕が誰かに頼んでおくから。
 ちなみに、みんなでついていくからね」
 マジ?
 僕はそっとミラーくんに視線を送った。が、ミラーくんは首を振って否定した。
 何でもするって言ってたのにーーーっ!
「今日は遅いから、もうお開きにしようね。明日が楽しみだなっ」
 ミハエルくんはそう言ってにっこりと笑った。
「あ、そうだ、4番と2番には恋人同士を演じてもらおうかな、僕の部屋で」
 エーリッヒくんとシュミットくんの事だ。
 二人とも、青ざめた顔をしている。
「さあ、帰ろう」
 ミハエルくんは笑顔を崩さずにそう言った後、小声でこう言った。
「絶対許さないからね」
 初めは何の事か判らなかったけど、落ち着いて考えてみると、さっき言ってたあのことだった。
 聞こえてたの、あんな小声で言ってたことが!?
 なんて地獄耳。
 って思ってたら、ミハエルくんはくるりと振り向いてとどめを刺した。
「あ、そうだ、イタリアチームのジュリオにも頼んで、お化粧もしようね」
 真っ白に燃えつきるって、こんな感じ?
 永遠にこの夜が続いて欲しい気分だ………。
 もうミハエルくんの悪口なんか絶対言わない。って言うか、聞いても笑わない。
 絶対に!






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