Let's & Go

手紙





















 今日も、僕は豪と喧嘩した。いつものように、理由はいつも他愛ないことだ。お菓子を取ったとか取らないだとか、ソニックとマグナムどっちが強いかとか、勝手に人のもの使ったとか……まあ、そんなとこ。
 仕方のない奴だ、と思う。
 まあ、のっちゃう僕も悪いんだけど。
 ところが、今日のあいつはなんだか違う気がした。何を怒ってんだか知らないけど、最後にはぷいって向こうを向いたまま、自分の部屋にこもってしまった。
 ……今日の喧嘩の理由ってなんだっけ?
 僕のポテトチップスをくった……っていうのは昨日。
 どっちが先にゴールしたか……っていうのは一昨日。
 んーと。あ、そうだ、手紙の話だ。




「ただいまー」
 僕はお母さんにそう言うと、自分の部屋にランドセルを置いてから居間に下りた。
 今日は委員会があったから、豪とは別々に帰ったんだ。豪はいつも、テレビゲームをしてるかマグナムをいじってるか、二つに一つだ。
 今日はゲームをやってた。格ゲーか。
 ……あれ、あれは………。
 テーブルの上にあった手紙を、僕は手に取って見た。
 あ、やっぱり僕宛だ。でも、開封してある。
 基本的に、お母さんは僕のプライベートには触れたりしない。豪のプライベートにはたまに触れているようだけど、どうやら豪は気づいていないらしい。
 僕の方が信用されているからなのか、それとも豪が心配なのか……そんなことは、僕には知るよしもない。それに、たいして興味もないし……。
 お父さんはまだ帰ってない。とすれば、容疑者は一人に絞られる。そう、あいつだ。
 とりあえず差出人を見てみる。あれ、Jくん?何でわざわざ手紙なんだ?遠いところに住んでるわけでもなし、直接言いに来ればいいのに。
 とにかく、その手紙を持って僕は豪の後ろに立った。
「豪」
 怒りがこもっていたかもしれない。いや、そんなことは結構どうでもいい。実際、僕は怒っていたんだから。
 豪は振り向かなかったが、ゲームの方はいきなり負けがこんできた。
 ……聞こえてるな。
「豪」
 豪はそれでも振り向かない。
 ………いい度胸だ。
「豪!」
 豪はゆっくりと振り向いた。自分が何をしたのか、自覚はしているみたいだ。
 ……自覚してるだけだな。表情に悪気はない。それどころか、どちらかと言えば正当性を主張したいような顔をしている。
「おまえなー、人の手紙を勝手に開封していいと思ってんのか?」
「あ、兄貴にこと、心配して、だな……」
「おまえに心配してもらう必要はないよ。人の手紙を勝手に開けるなって、何度言ったらわかるんだよ!」
「お、俺はただ…Jが……のこと……とか、……ってんじゃ…って……そう思って…」
 口の中でごにょごにょ言ってる。
 なに言ってんだか聞こえないよ。
「今度やったら承知しないからな!」
 僕がそうタンカを切ったら、豪はむすっとした顔で黙り込んでしまった。
「聞いてんのか、豪! 分かったか!?」
「〜〜〜、烈兄貴のバカっ!」
 豪はそう叫んでそっぽを向くと、豪は階段をかけ上って自分の部屋にこもってしまった。


 とまあ、こういう具合いに僕と豪は喧嘩をしたんだけど、この喧嘩はいつものようには収まらなかった。 いつもよりかはごたごたしなかったが、こうなることを知っていたら、ごたごたしたほうがましだ。



「ったく、なんだよあいつ〜!」
 僕は自分の部屋に戻って、J君の手紙を読んでみることにした。
 うわ、ぐちゃぐちゃだ! 豪の奴!
 何とか読み取れるところだけ読んでみるけど、当り障りのない内容が書いてあるだけ。大事なところはぐちゃぐちゃで読めない。一番最後に、「今度返事を聞かせて欲しい」って書いてあるけど、正直言って内容が分からないので答えようがない。
 豪の奴、後で半殺しにしてやる。
 前にもこういう事があった。あの時は、確かブレットくんの時。Jくんだったら直接聞きに行けばいいけど、エアメールじゃさすがに洒落にならない。
 あの時は大変だったっけ。
 僕はその時の事を思い出して、くすりと笑った。
 今でこそ笑えるものの、あの時は本当に大変だった。
 ブレットくんが寛容で助かったっけ。でも、あの時は結局ブレット君の用事はわかんなかったんだ。 あ、Jくんに内容聞きにいかなきゃな。
 それにしても豪の奴、なに考えてんだか。最近とみに分からなくなってきたな。
 あいつももう10歳になる。そろそろ反抗期の時期だしなぁ……。扱いにくくなる時期に入るな。やれやれ、先が思いやられる。
 とりあえず、僕はJくんの所に行ってみることにした。手紙の内容を聞いておかないとね。
「お母さん、僕ちょっと出かけて来るね」
「はい、行ってらっしゃい!」
 お母さんは特に何も聞かなかった。豪の時はあんなにしつこく聞くクセに。
 家を出てなんとなく後ろを向くと、窓に豪がへばりついていた。僕をにらんでいる。いったい何を考えてるんだか。




 土屋研究所につくと、なんだかいつもより静かな気がした。
「こんにちはー!」
 声をかけるが、どうやら博士は留守のようだ。他の人たちもいないらしい。
 ……Jくんもいないのかなぁ。
 僕はJ君の部屋に行ってみることにした。Jくんの部屋は研究所のはずれで、いわゆる離れにあたる。
 ノックすると、ドアはコンコンと音を響かせた。
「はい。」
 あ、よかった。Jくんはいるみたいだ。
「博士?もう戻ってきたんですか?」
「僕だよJくん。入るよ」
「え、烈くん?」
 僕がノブを回す前に、扉は勢いよく開いた。
「……やぁ」
 僕がそう言うと、Jくんはなんだか不思議な表情をした。なんて言うか……照れてる、のかな?
 違うか。照れるわけないよな。
 が、僕の見解とは違っていたようで、Jくんは見る間に赤くなった。
 ……やっぱり照れてるのか。なんで?
「中、入っていいかな」
 Jくんは焦ったような感じで、うんどうぞ、っていって中に通してくれた。
「あのさ……あの、手紙の事なんだけど……」
 僕がやったんじゃないとはいえ、やはりこういう事は言いにくいの一言につきる。
 ところが、Jくんは手紙という単語を聞いた時点から妙に焦り始め、その後の言葉を聞いていないかのようだった。
「返事を聞かせてって書いてあったやつ。あの質問さ……」
「あっ、あの、そのっ」
 日本語になってないよ、Jくん。
 でもその言葉に台詞を遮られてしまった僕は、質問の仕方を変えることにした。
「……Jくんの口から、直接聞きたいんだけど……」
 嘘も方便、だよね。
 Jくんはしばらく右往左往してたけど、決意を固めたように僕に向き直った。
 僕はと言えば、Jくんが豪に愛の告白をしたいとか言ってきたらどうしよう、なんて馬鹿なことを考えていたりしてた。でも、ときどき本当にそう思うんだけど。……そんな考え変か、やっぱ。
 やっぱり、昨日見たドラマの影響は強い。ホモを取り扱っているからびっくりしたけど、ギャグの要素が強かったから結構最後まで見てしまった。おかげで今日は寝不足だ。あーあ。
 あくびを噛み殺してJくんを見ると、Jくんはずいぶん真剣な目をしていた。真面目な話らしい。僕も姿勢を正して話しに備える。
「れ、烈くん……」
 しばらく下を見つめた後、Jくんはいきなり僕に飛びついてきた。
「直接聞きに来たってことは、OKっていうことでいいんですよねっ!」
「え?」
「僕、僕烈くんの事が好きなんですっ!」
 ………は?
「いままで、一生懸命否定してきたんですけど、もう我慢できない!
 やっぱり烈君の事が好きなんです!」
 な、なにぃ〜!
「ちょ、ちょっとまって………」
 なんていっても無駄らしい。Jくんは熱っぽい目で僕を見つめた。
 熱があるんだよ、きっと!
「烈くんっ!」
 Jくんはそう叫ぶと、僕をベッドに押し付けた。
 ま、待ってよ、マジ?
「Jく……むぐっ」
 気が付けば、何かが口をふさいでいた。違う違う、何かじゃない!,キスされてんだ、キスー!
「烈くん……」
「あっ……」
 Jくんの唇は喉を滑る。
 自慢じゃないけど、僕はくすぐったがりだ。くすぐったがりは感じやすいって、ヤバイ雑誌で見た覚えがある。ってことは、僕が感じやすいのかそれともJくんがうまいのか……って、そうじゃない!
「ジェ、イくん! Jくん、は、豪の事……んっ……好きなんじゃ、ないの……?」
 な、なにとぎれとぎれに言ってんだ僕は。
「豪くんも好きだ。でも、それは友達としてだ。恋愛の対象としてじゃない。」
 僕だって友達だろうがっ!
「だいたい、豪くんと僕はある意味ライバルなんだ」
 ある意味ってなんだ、ある意味って。
 ん? Jくんのテクニックは、結構馬鹿にしたもんじゃないな。どっかで覚えたんだろうか?
 いや、そんなこと考えてる場合じゃない。何とかこの状況を回避しなくちゃ。
 そんなことを考えてる間に、僕は段々脱がされてる。,ま、マジでヤバイかも。
「ジェ、Jくん、待って………」
「大丈夫です、痛くしたりしませんから」
 僕はそんなこと言ってんじゃなーいっ!
 Jくんの頭はどんどん下に向かっていく。僕はどんどん気持ち良くなっていく。僕はこんなに快楽に流されやすい人間だったんだろうか。
「……あ、んっ………」
 情けない声が洩れる。今の僕の声? うそだろ、そんなまさか。
 突然、腰の辺りに風が吹いた。ま、まさかっ!
「Jっ……あっ!」
 Jくんの目は僕の……を見てる。
 今更になって、僕の背中を冷汗が流れた。
 恐い。本当にそう感じている。
「あ……あんっ!」
 僕の……を、湿った感触が包んだ。
「あっ、ああっ……ん、はぁっ……」
 喘ぎ声の様な声が、どこかから聞こえた。僕の声に似ている。僕の声じゃないことを祈りたい。
「烈くん……その声、もっと聞かせて……」
 やっぱり僕の声らしい。恥ずかしい。
 僕はそう思って、懸命に唇を噛んだ。
「ん……んっ……んん」
 どんなに噛んでも、喉の奥で声は出ている。
 僕は必死にJくんを引き剥そうと試みるが、だんだんと僕を支配する快楽に、力が出なくなっていった。
 僕の手は力なくJくんの頭にしがみついているだけだった。
「や、やぁだぁ……Jくんっ!」
 視界が潤んできた。涙が溢れる。
 Jくんの名前を呼んだら、もう唇を噛むことすら出来なくなっていた。
「やぁん……っ、あっ……は……あんっ」
 この辺りから、僕はもう何も考えられなくなっていた。この快楽から逃れるすべも、力もなかった。
「あっ、あっ……ああんっ!」
 僕の限界はもう近かった。
 ねっとりと絡みつく舌に、僕の理性は根こそぎはぎ取られてしまった。
「あ、あああっ……ジェ、Jくんっ」
 僕は、人生で始めての行為で、僕は人生で3度目のそれを、事もあろうにJくんの口の中にはいてしまうと言う恥ずかしいことをしてしまっていた。
 Jくんは身体を起こすと、僕を心配げに覗きこんだ。
「大丈夫?」
 大丈夫もくそもあるか、おまえがやったんだろうがっ! と叫んでやりたかったが、僕の身体はまったく言うことを聞いてくれなかった。
 それはそうだろう。今までは寝ている間にいつの間にか、という具合いだったんだから。お父さんに聞かなければ、僕はそれを病気だと思っていただろう。
 Jくんは僕を抱きしめると、首筋に優しくキスをした。僕は情けないことに、その行為に感じてしまっていた。身体に震えが走ったのだ。
 あれ、な、なんだ、今の。
 普通は自分だって触らないところに、Jくんの指がある。なにかがついているらしく、思うほど抵抗なく指はそこに侵入してきた。
 そ、そこは出るとこであって……入るとこじゃないと思うんだけど……っ!
 と言う僕の心の叫びも空しく、ゆっくりと指は侵入を続けた。
「やっ、やだJくんっ、痛いっ!」
 Jくんは僕の言葉が聞こえていないかのように、行為を続けた。
「やだぁーっ!」
「れつあにきーっ!!」
 僕の叫びと同時に、ドアが激しい音を立てて開いた。
 豪だあ!
「てええええいっ!」
 豪はJくんに飛び蹴りをくらわすと、動けない僕を抱きかかえた。
「Jっ!てめー、オレの兄貴になにしやがるっ!」
 オレのっていうフレーズが気になるが、この際気にしないことにする。後で激しく後悔することになるのだが、このときは助けてもらった嬉しさでいっぱいだったんだ。
「烈兄貴っ、帰るぞっ!」
 今日ほど、弟がいて良かったと思う日はない。
 豪は僕の身支度を整えてから、僕を支えて歩き出した。
「烈くーんっ!」
 Jくんの叫び声が聞こえるけど、この際これも無視しよう。
「だから心配してたのに。烈兄貴、オレの言うこと全然聞いてくれないんだもんな」
「ごめん」
 いったい何をどう心配していたんだかわかんないけど、とりあえず今日は俺の負け。好きなように言ってくださいって感じだ。
 家につくと、ぐったりしている僕を豪はベッドに寝かせてくれた。
「もう少し気を付けろよな。烈兄貴は愛想を振りまき過ぎるんだよ」
「う、うん」
「もうちょっとで初体験の相手をJに持ってかれるとこだったんだぞ!」
「うん、ごめん」
 助けてもらった申し訳なさと、無事家に戻ってこられた安心感で、僕の判断力は鈍っていたようだ。 豪はベッドの上にあがると、僕の上に馬乗りになって僕をにらんだ。
「烈兄貴の初体験も初キッスも初口内射精も、ぜーんぶオレがゲットするはずだったのに!」
 ん? 待て豪。そんな言葉どこで覚えたんだ? いやその前に、何を言ってんだおまえは!
「こうなったら、早いうちに初体験だけでもゲットしとかないとな」
 そう言って豪は僕にのしかかってきた。
「ちょ、ちょっとまてー!」
「待たないよ。兄貴の力が抜けてる日なんて、そうそうあるわけじゃないしな」
 そう言う問題か!
 豪は強引にキスをすると、どこで覚えたんだか舌を入れてきた。
「んっ、んんっ……」
 引き剥そうとするが、さっきの今では力なんか出やしない。
 ようやく離れたと思ったら、豪は首筋を経て胸へと唇を移動させた。……を口に含む。
「やっ……!」
 声を出しかけて、僕は慌てて口を抑えた。下にはお母さんがいるはずだ。こんな声聞かれてたまるもんか。
「かあちゃんなら町内会の用があって、夕方まで戻ってこないぜ」
 豪が僕の思考を呼んだかのようにそう言った。
 そうか、それなら安心だ。いや違う!
 僕は急いで起き上がろうとしたが、豪に阻まれてそれもできない。
 豪は……をまた口に含むと、舌でゆっくりと愛撫を始めた。
 ……何でこいつもうまいんだよ!
「は……あんっ!」
 思わず声が洩れる。たかだかこれだけの事で、俺はまた感じ始めていた。最悪。
 豪の唇は胸から離れると、ゆっくり下に向かって移動し始めた。そして、あそこに到着した。
 いつの間にかズボンも何もかもはぎ取られていて、豪は何の抵抗もなく、僕の……を口に含んだ。
「あっ!! んんっ、んっ」
 すでに一度言ってしまっている僕は、口に含まれただけでも感じてしまった。声を抑える余裕もない。
「あ、あんっ……ん、はっ」
 身体がびくびくと震える。抑えることもできない。
「もっ……やぁ……っ、……ごぉ……」
 涙声になっている。目にだって涙が溜って、今にもこぼれ落ちそうだ。
 僕はなんとかこの快楽から逃れようと、豪の頭をかきむしったりシーツを引っ張ったりしたが、はっきりいって無駄だった。
 豪の舌が僕の……を嘗めあげると、僕はそれを爆発させた。豪はそれを大切そうに飲んでいるようだったが、僕にそれを見る余裕はない。
「烈兄貴」
 僕はなんとか視線を豪にやると、豪はいま僕の……を含んでいたであろうその口で、僕に口付けた。
 う、なまぐさい。
「烈兄貴、Jの前でもそんな声で喘いでたのかよ」
「なっ!」
「許せねぇ。オレ以外の奴がそんな声聞くなんて!」
「ご、豪っ!」
 豪は僕の両足を肩の上に担ぎあげると、先ほどJくんに触られたところを、なんと嘗め始めた。
「や、やめろ豪、汚いぞっ!」
「兄貴に汚いとこなんかあるわけねぇだろ」
 そこは誰でも問答無用に汚いんだっ!
 豪はそこを丁寧に嘗めあげると、ゆっくりと舌を突っ込んできた。もちろん中までは入らないが、入口のところが冷たいと思うくらいに濡れている。
「やっ……ご、ぉ!」
 身体を起こして僕に口付けると、豪はさっきのJくんみたいに、そこに指を押し当てた。強引にねじ込むと、僕のそこは馬鹿みたいに素直に受け入れた。
「ひっ……!」
 異物感が漂う。判断のつかないような感覚が身体中を襲う。さっきよりは痛くないけど、あくまでさっきよりかは、だ。
「………くぅっ」
 豪の指は僕の中で一つの生命体のようにうごめいた。
 気持ちの悪い感覚が、少しずつ変化する。
「……やぁっ……」
 しばらくそこをいじくっていたが、豪は突然指を引き抜いて身体を起こした。
「…………っ」
 豪の表情は、ある意味無表情だった。
「……ごぉ?」
 豪は素早く衣服を脱ぐと、僕のそこに何かを押し当てる。その何かを理解した僕は、恐怖にかられて動かない身体で逃げようとした。が、今の僕では豪の力にかないもせず、押さえつけられてしまった。
「や、やだ、ごぉ……っ」
 僕は首を振りながら、それでも懸命に逃げようとした。が、豪はゆっくりとそれを挿入してきた。
「やだーっ……い、いた……」
「……烈、兄貴、力抜いて……」
 ぐいぐいと押し込まれるそれは、割とすんなり僕の中に侵入してきた。するっと滑るように奥まで入れられる。
「……あ、うっ!」
 豪は僕の足を抱え直すと、根元までしっかりと突き刺した。僕はシーツをちぎれるほど握りしめた。
「……動くよ」
「や……あんっ!」
 異物感は、さっきの比じゃない。それが僕の中でゆっくりと動き始めたのだから、僕は気が狂うかとさえ思った。
「いっ……あ、あうっ」
 僕はめいいっぱい目に涙を溜めて、宙を見つめた。
 僕の奥が、段々変化し始める。気持ち悪さが、段々快感にすり替えられていく。
「はぁっ、あ、あっ……んん」
 少しずつ動きが早くなっていく。
「あっ……は、ああっ……」
「れつ、あに、き……」
「や、んっ、あ、ああんっ」
「そんな声でなかれたら、オレ、もう、イっちゃうよ……」
 豪の声は僕の耳には届かなかった。僕はそれどころじゃなかった。理性も何もかもふっとんでいて、僕の中に残っていたのは快感だけだった。
「……いくぜ。」
「………あ、あ、あああああっ」
 僕の奥底で何かが爆発した。それが豪のものだと気づくのには時間がかかった。何しろ、一緒にイっていたことさえ気づかなかったのだから。




「よ、烈兄貴、起きたか?」
 さわやかに言われて、僕は気絶していたことに気が付いた。腰の痛みさえなければ、今日の事は夢だったんじゃないかとさえ思っていただろう。いや、そうだったと思いたい。
「烈兄貴、イっちゃったまま2時間も起きないんだもん。心配してたんだぜ」
「だ、誰の所為だと思ってんだ!」
 そう怒鳴りつけると、豪は心配げに僕を覗き込んだ。
「痛い?」
「あたりまえだろ、なに考えてんだおまえはっ!」
「でも気持ち良かったろ?」
 僕は思わず絶句してしまった。
 い、いや、そりゃ気持ち良かったけど、そういう問題じゃ……。
「もうすぐメシだってさ。起きれる?」
「……起きれるわけないだろ。」
「じゃあさ、気分が悪いってことにしとくから。メシここに持って来るよ」
 何だか僕はめまいがした。気が遠くなりそうだ。
「あ、Jにはオレのもんになったからって伝えておいたぜ。もう手出ししてこないと思うよ」
 僕は呆然と豪を見つめた。
「だから、心配せずにゆっくり休んでろよ」
 あ、あのなぁ……。
「じゃ、メシ持って来るぜっ」
「ご、豪っ!」
 豪は振り返らずに部屋を飛び出していった。
 あのやろーっ!
 お、俺はこの次、どんな顔してJに会えばいいってんだーっ!


 僕の叫びは、僕の中で空しくこだましていた。






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